日本で唯一自転車のリムを生産している会社があります。
新家工業。
大阪・南船場に本社があるこの東証一部上場企業の起源をたどると、100年以上前の北陸・加賀の山中温泉にたどりつきます。
大阪からサンダーバードで2時間。石川県の南西部福井県に接する加賀市。特急停車駅の加賀温泉駅からバスに乗り百万石の田園風景を20分程走ると、モヤかかった山に挟まれた渓谷に沿うよう形成された温泉街「山中温泉」につきます。温泉街の入れ口付近になると電柱広告に「アラヤパイプ」「アラヤリム」と交互に現れ、しばらくするとリムを生産する山中工場が見えてきます。
新家工業は戦後の混乱からいち早く再建するため創業者の出身地でもある石川県に山中工場を操業させます。精密な技術が必要な自転車パーツの製造に山中漆器、九谷焼などの伝統工芸で培われた職人技がいかされました。
1946(昭和21)年に完成車の生産を始めると、敗戦で焦土化し交通手段が乏しかった時代に移動目的で自転車が売れ「2台に勝る1台」といわれ高く評価されました。1982(昭和57)年には日本で初めてオフロード用自転車マウンテンバイクの量産に成功し世界にその名を知らしめることになります。
近代化した工場に労働者が集まり加賀の地場産業として成長。大同工業や新家銀行(現在の北陸銀行)の礎を築いた創業者の長男の新家熊吉は初代加賀市長に選出され現在でも地元の名士として崇められています。