日本損害保険協会は2024年9月、交通事故の防止・軽減を目的とした最新の「全国交通事故多発交差点マップ」を公表しました。なんと、大阪は不名誉なことに全国ワースト5に、6ヵ所がランクイン、事故件数最多の長居交差点は東京都池袋六ツ又交差点と並び19件と事故が多発し、全国で最も危険な交差点となっています。
<2023年 事故多発交差点ランキング>
1位 (19件) 長居交差点 (他1か所)
3位 (16件) 谷町9丁目交差点
4位 (15件) 谷町4丁目交差点
5位 (14件) 上町交差点6丁目/梅新東/瓜破交差点
長居交差点は大阪市住吉区「長居公園」の南西角の交差点で、交通量が非常に多い「あびこ筋」から公園に左折する際に自転車を巻き込む事故が多かったようです。
▲全国で最も危険な長居交差点
全国的には長居公園というと、Jリーグチーム「セレッソ大阪」の本拠地として、耳にしたことがあるかもしれませんが、同クラブは月に2試合ほどしか試合を主催しておらず、集客も少なく事故多発の主要因とはいえません。
「君たちは税リーグだ。どれだけ税金を使うんだ」
「Jと関わると抜けられない。悪質商法みたい」 ー村井満・前Jリーグチェアマン
(日経新聞 2023年5月19日付)
Jリーグはスローガンこそ耳障りはいいのですが、人気が低迷し思ったほど地域へ貢献ができていない現状があり、近年「税リーグ」と揶揄され税金依存の施設運営の見直しの声が上がっています。Jクラブは本体企業の赤字補填はスポンサー企業から受け、スタジアムの赤字補填は自治体から受ける収益構造となり、サポーター(観戦客)がクラブを支える理想から乖離、プロスポーツとして60クラブの自活が難しい実情が一部で露呈、物議を呼んでいます。
▲地域がJリーグと関わる危うさを語る村井満元チェアマン (日経新聞 2023年5月19日付)
セレッソ大阪は1995年に正式にJクラブとなり、基本的にトップリーグ「J1リーグ」に在位する秀逸なクラブですが、所在する住吉区や長居周辺がそれにより大きく活性化してきたという訳ではありません。あまり知られていませんがサッカー場のあるこの地には、かつては関西随一の入場者数・売上高を誇った大阪市営の競輪場「大阪中央競輪場」があり、競輪場をコンテンツに収益金で沼地や田畑だった周囲の都市基盤を整備し、現在に至っているという経緯があります。
▲長居公園の衛星写真 公営競技の競馬場と競輪場が併設されていた
大阪中央競輪場は1950年に開場された市営施設で、48年に開場した住之江の府営競輪場の好評を受け、大理石や御影石などを使用し整備、博覧会を思わせる立派な入り口で日本一と称えられ、関西随一の入場者数・売上高にてまちづくりに寄与しました。収容人数55000人の施設に、計66回の市営競輪において343万人以上を集客、平均すると5万人以上となり、この数は昨年の阪神甲子園球場の公式戦を入場者数を上回ります。
▲関西随一の人気「大阪中央競輪場」はたった12年間で廃止に追い込まれた
競輪は戦後間もない1947年(昭和22)から始まり、開始から8年間で全国で60以上の施設が開場しました。大阪にもかつては4施設ありましたが、知事の独断により廃止され現在では岸和田市による岸和田競輪のみが実施されています。脱公営競技を掲げ、競輪場を廃止する思想が共産主義と共に高まり、大都市の革新自治体に所在する人気競輪場はその標的となり、公営競技が次々に撤廃に追い込まれました。
<大阪府下の公営競技場>
・住之江競艇場 [1956年-] 箕面市など主催
・住之江競輪場 [1948-1964年] 政治的判断で休止
・大阪中央競輪場 [1950-1962年] 政治的判断で廃止
・豊中競輪場 [1950-1956年] 政治的判断で休止
・岸和田競輪場 [1951年-] 岸和田市主催
・大阪競馬場 [1948-1959年] 政治的判断で廃止
・春木競馬場 [1929-1974年] 住民運動により廃止
・長居オートレース場 [1951-1952年] 売上低迷により廃止
取って代わるように、これまで遊戯として人気を集めていたパチンコが景品交換所を介した「三店方式(大阪方式)」が心斎橋から広がり、財源を手放した府市のふところ具合は徐々に悪化、高い代償となっています。2007年にこのような状況に打破すべく出馬した橋下徹知事は政治団体「維新の会」を発起、東京都知事時代に「東京ドーム競輪」や「お台場カジノ計画」を立案した石原慎太郎を共同代表に迎え、財政健全化とカジノ法を推進、現在も府政を担っています。
各地で税金の使途に厳しい目が注がれるなか、2024年8月にANA総研というシンクタンクより「Jリーグは誰のものか」という強烈にJリーグを批判する詳細なレポートがまとめられリーグが抱える問題点を指摘、ANAはJクラブ「横浜ASフリューゲルス」を1998年までサポートした厳しい内情を吐露しています。
Jクラブは、本体の事業の赤字補填は責任企業から受け、競技場の赤字補填は自治体から受けるという、夢のような構造によって成り立っている。
レポートはJがプロスポーツとして成り立っていない点や宣伝媒体としても機能していない状態を指摘、そして、後半は天然芝競技場の維持コストや稼働率の低さをその他スポーツと比較しサッカーのすねかじり体質をまとめています。東大阪市「FC大阪」は2019年から「花園ラグビー場」を本拠地にJ3リーグを主戦場としていますが、資金不足から市との契約を履行できず、協定締結が難航しています。
私見ですが同じスポーツ施設を運営するなら、税金を払って天然芝サッカー場を維持するより、競輪場を運営して収益を得た方が住民のためになるように思います。現存する43の競輪場はすべて黒字運営され、収益金は主催自治体のインフラ整備・福祉施設・教育文化育成・公衆衛生など広く活用されています。
<近畿の廃止・休止の競輪場>
※カッコ内は廃止年
鳴尾競輪場 (1950) 暴動により閉鎖
豊中競輪場 (1955) 知事の独断で休止
宝ヶ池競輪場(1958) 市長の独断で休止
神戸競輪場(1961) 市民からの陳情で休止
明石競輪場(1961) 知事の独断で休止
大阪中央競輪場 (1962) 知事の独断で休止
住之江競輪場 (1964) 知事の独断で休止
西宮競輪場 (2002) 政治的判断で休止
甲子園競輪場 (2002) 政治的判断で休止
大津びわこ競輪場 (2011) 不採算
関西には岸和田以外に奈良・和歌山・京都向日町競輪場があり、競走が実施されていますがいずれの施設も老朽化していて、2000年に制定された国際規格に合致しておらず、アジア大会などの国際大会が開催できません。KEIRINは日本発祥の世界スポーツで五輪の正式種目に採択されていますが、関西の施設はすべて屋根すらなく、いまだに屋外競技なのです。2024年パリ五輪で自転車のトラック種目で日本がメダルゼロだったのは、端的に整わない練習環境が原因だと断言できます。屋根付き自転車競技場は、欧米先進国はもちろん中国・韓国・オーストラリア・シンガポール・香港・インド・ブラジル・コロンビア・マレーシア・ベラルーシ・トルクメニスタン…たいていどこでもありますが、関西には一つもなく昭和遺産が残るだけなのです。
▲耐震基準を満たさず老朽化した県営施設「奈良競輪場」
遅々として進まないこのような地方の状況に対応すべく、2017年には自転車活用推進法が施行され、地方公共団体に「自転車競技のための施設の整備」(第八条の四)がもとめられています。推進法に基づいて2021年に策定された「第2次自転車活用推進計画」では、より具体的に国際規格に合致した自転車競技施設の整備促進と明記され市町村に競輪場の設置を提起しています。法令に基づき、京都の向日町競輪場はようやく建替えを決議しましたが、大阪からはまだそのような話は上がってきません。
競輪場の設置は地域経済において、ほぼ失敗例のない社会システムですが、政治家や社会学者、経済学者も無視を決め込み有益性が正しく評価されておらず、新設は半世紀以上もありません。大阪は2030年頃にカジノの誘致を目指していますが、競輪場の成功は43施設すべて黒字と再現性が非常に高く、安定的な財政確保のため併設を検討すべきではないでしょうか。