シン公営競技:序
シン公営競技:破
の続きです。

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競輪は国内では公営競技として70年以上の長い歴史を有していますが、同時に競技スポーツという側面も併せ持っています。日本のプロスポーツとしては国内最多の2000人以上の選手が登録され、2000年からはシドニー五輪からは正式種目に採用されています。日本発祥スポーツの五輪種目は柔道・競輪・空手(東京五輪)の3つで、海外でもそのまま「KEIRIN」と表記されています。

日本はKEIRINの母国でプロ選手も多く抱えていますが、これまで北京五輪で獲得した銅メダルが1個のみで金メダルはありません。かつて日本選手はトラック競技において世界選手権で圧倒するほどの成績を上げていました。当時の五輪は創始者クーベルタン男爵の提唱する「アマチュアリズム」を標榜しており、プロ選手が参加できませんでした。五輪は時代と共に商業化を強め、徐々にプロに門戸を開くようなっていきます。

日本の競輪選手が所属する「JKA」はオートレースと競輪の2つを管理する公益法人です。サッカーではJFA(日本サッカー協会)はFIFAの影響下にありますが、JKAは元々経済産業省所轄の団体で国際自転車競技連合「UCI」の関係先ではなく両者は目指す方向性に大きな違いがあり、協調しあって自転車競技の振興をしている訳ではありません。

UCIは2000年に自転車トラック競技の大改革を断行し、その際に日本はKEIRINを正式種目に入れ込むことに成功しました。同時にトラック競技のルールが変更され、1周250m板張りの「ベロドローム」と言われる室内競技場と厳格化されました。しかしながら、日本にはこの規格の公認競技場がなく参加選手はオーストラリアで合宿をするなどして五輪に挑んみましたが、新ルールに対応することがなかなかできませんでした。ルール改正に伴い、欧州各国・米国・カナダ・豪州などの先進国は公認ベロドロームを設置、中国・ロシア・香港・インド・イスラエル・コロンビア・トルクメニスタン・マレーシアなどでも国際大会が実施されています。母国日本はルール改正から遅れること11年、静岡県の伊豆半島の山中に「伊豆ベロドローム」がようやく完成、大きな大会を実施するにはアクセスが悪く、主に選手の練習場となっていました。

 

「お・も・て・な・し」

 

「世界一コンパクトな五輪」を公約にし東京都は2020年の五輪招致活動を行い、ブエノスアイレスの総会にて競合の末に見事に大会を勝ち取りました。猪瀬直樹都知事(当時)は、東京数キロ圏内に競技会場を集中させ、自転車競技のトラック種目は東京湾の臨海地区に20億円をかけ専用競技場「有明ベロドローム」を建設するとしていました。

しかし、小池百合子知事になるとこの計画の見直しを提言「これまでも会場の変更というのはしばしばあった」とし、有明の競輪場も白紙となります。伊豆のベロドロームはサッカーでいうなら「Jビレッジ」のような強化施設のため、五輪のような大きな国際大会を実施するには大規模な改修が必要となり、代表選手は実践を想定した練習ができずに2月の冷たい雨の中で屋根のないコンクリート走路で直前合宿をしいられました。東京五輪の反省点から分かるように、日本に必要なのは国際規格のベロドロームなのです。現存する40以上の競輪場は賞味期限が切れていて、新規格の競技場に更新していく必要性があるのです。

 

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白紙となった夢の競輪施設「ベロドローム有明」

 

競輪は誕生から70年以上が経過、施設は老朽化が進み、最盛期で全国に62あった競輪場も43施設となりました。減少した施設のほぼ半数は関西の施設で、革新自治体の首長による政治的判断によるもです。このような共産体制レジームは消滅しましたが、競輪を再開した自治体はひとつもありません。東京都の石原慎太郎知事(当時)が「新しい競輪」「お台場カジノ計画」構想を表明しましたが実現にはいたりませんでした。しかしながら、石原の意思は受け継がれ2018年にはカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備法が成立、大阪は関西大阪万博が開催予定の人工島「夢洲」にて一体的な開発を行う予定となっています。

 

 

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 2025年夢洲で開催される「大阪・関西万博」 開催には競輪の協賛金が支出される

 

大阪は古くから自転車産業の中心的な役割を果たしてきました。また、自転車の普及率や利用状況も、欧州の「自転車都市」に引けを取らない高い水準となっていてます。競輪史においても住之江競輪場の熱狂的な人気が、全国へと拡大した経緯を見てみても、関西初の屋根付きのベロドロームは大阪にあるべきなのです。

とはいえ、大阪は財政的に困窮していた時期が長く緊縮体制を取っているため、競輪場の建設に対して公共政策として予算を組むとなると反対する意見も多く出てくるはずです。2000年以降に国内に建設された屋根付きの競輪施設は3施設ありますが、どれも税金は1円も使用されていません。小池知事は建設費を問題として、有明の施設を撤回しましたが、少し知恵を働かせれば税金を使わず施設を建設できるのです。

私が万博後の夢洲でKEIRINを実施すべきであるとしているのは、万博で建設されるパビリオンを競輪場に転用することで、税金を使わず「負のレガシー」を収益事業に変換することができるからです。カジノが開業すると国内外から収容できないほどの多くの観光客が訪れます。カジノは席数に限りがありますから、あふれ返ったギャンブラーたちをターゲットに日本独自の公営競技を楽しんでいただければ一石二鳥ですし、休催日にはボクシング・アイススケートやコンサートなどのイベント会場として貸し出せば、一層の収益を出すことができます。

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競輪の人気のピークは1950年代でファンも高齢化し、一般的には昭和の終わったコンテンツと認識されているのではないでしょうか。ところが令和になり、米国でスマホを介したスポーツベッティングが流行の兆しを見せると、ソフトバンク・サイバーエージェント・楽天・DMMなどのIT企業が相次いで事業として競輪に投資、売り上げも底を打ちイメージも変わりつつあります。ゴジラやウルトラマンが新装し再ブームを起こしているように、競輪も少しテコ入れをすれば新たなファン層を獲得し、世界から本場の競輪見たさに来日客が訪れ、他国のカジノと差別化にもつながります。

大阪からは、野球のダルビッシュ有選手、テニスの大坂なおみ選手、サッカーの本田圭佑選手など多くの一流アスリートが生まれています。これは自宅の近くに練習施設ある環境で幼少期を過ごした結果です。静岡の伊豆まで電車を乗り継いで行く必要がないのです。ベロドロームは、スポーツ振興という面でも、遅かれ早かれ設置しなければなならいのです。

「シン公営競技」と題して公共政策としての公営競技について妄言を交え3回にわたり投稿させていただきました。夢洲のカジノには賛否があることは承知をしていますが、印象として反対派も賛成派もギャンブルの現状を正確に認識して声を上げている訳ではなく、ポジショントークをしているだけのように感じます。私は、より深い議論をするため、本稿で述べてきたような歴史的経緯やギャンブルに対する正しいリテラシーを各々が身に着けていくべきではないかと思っています。

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